昨日まで使えていたスマートフォンの操作が、今日は分からなくなっている。電話のアイコンを大きくしても、壁に手順を貼っても、うまく使えないことがあります。
我が家でも、電話のかけ方を何度説明しても分からなくなり、大きな壁ポスターまで作った時期がありました。しかし、最終的には無理に発信してもらうことをやめ、家族から電話をかける「着信中心」の運用へ切り替えました。
この記事では、認知症の家族がスマホを使えなくなったときに、実際に試した工夫と、安全のために確認したい点をまとめます。本人の状態や生活環境によって適した方法は異なるため、できることを残しながら、無理のない使い方を探してみてください。
なぜスマホの操作が難しくなるのか
スマートフォンで電話をかけるだけでも、画面を点灯する、ロックを解除する、電話アプリを探す、相手を選ぶ、発信ボタンを押すという複数の操作が必要です。電話を切る操作や、途中で表示された通知を閉じる操作も加わります。
認知症では、操作手順を覚えること、画面上の情報から必要なものを選ぶこと、順番どおりに操作することが難しくなる場合があります。本人にとっては、慣れていたはずの端末が、急に複雑な機械へ変わったように感じられることもあります。
まず確認したいこと
すぐに機種変更や解約をする前に、操作できない原因がスマホそのものにないか確認します。端末の状態が変わっただけで、本人が混乱している場合もあります。
- 画面の明るさや文字が見えにくくなっていないか
- 音量が小さく、着信音や相手の声が聞こえているか
- ホーム画面の配置がアップデートなどで変わっていないか
- 電話アプリが別の場所へ移動していないか
- 画面ロックの番号や操作で止まっていないか
- 充電切れや通信障害が起きていないか
視力や聴力の変化が影響していることもあります。本人が「分からない」と言ったときは、記憶だけの問題と決めつけず、どの操作で止まっているのかを一緒に確認します。
工夫1:スマホで何をしたいのかを絞る
電話、メッセージ、写真、地図、ニュースなど、すべての機能を使い続ける必要はありません。まず、本人の生活に本当に必要な機能を家族で整理します。
例:残す機能
- 家族からの電話を受ける
- 家族へ電話をかける
- 時計や日付を見る
- 必要に応じて現在地を共有する
「以前は使えていたから」という理由で、すべての機能を残そうとすると、かえって必要な操作が見つけにくくなります。できなくなった機能を練習し続けるより、今できる機能を安全に使える形へ整えることを優先します。
工夫2:ホーム画面をできるだけ簡単にする
ホーム画面には、電話など本当に必要なアプリだけを残します。使わないアプリは別のページへ移動し、通知の多いアプリは通知を減らします。
- 電話アプリを最初の画面の同じ場所に固定する
- 文字やアイコンを大きくする
- 壁紙を無地に近いものへ変更する
- 不要なアプリやウィジェットを最初の画面から外す
- ニュース、買い物、ゲームなどの通知を減らす
- 設定変更後は配置を頻繁に変えない
iPhoneには、家族や介護者などの支援者が、表示するアプリや操作方法を簡素化できる「アシスティブアクセス」という機能があります。端末の種類やOSによって利用できる機能が異なるため、設定前にメーカーの案内を確認してください。
工夫3:連絡先を少人数に絞る
電話帳に多くの連絡先が並んでいると、目的の相手を探すだけで負担になります。よく連絡する家族を数人に絞り、名前や顔写真を分かりやすく設定します。
「長男」「自宅」「娘」など、本人が普段使っている呼び方へ合わせることも大切です。家族側の都合で名字や正式名称へ統一するより、本人が見て分かる表示を優先します。
工夫4:操作説明は一度に一つだけにする
我が家では、電話をかけるまでの手順を壁に大きく貼りました。しかし、複数の手順を一枚へまとめても、途中で分からなくなり、うまく操作できないことがありました。
操作表を作る場合は、文章だけでなく、実際の画面写真を使い、一枚に一つの操作だけを載せます。「青い電話を1回押す」など、短く具体的な表現にします。
操作表の例
- 横のボタンを1回押す
- 青い電話の絵を1回押す
- 「家」と書いてある場所を押す
- 緑の電話を1回押す
長押し、スワイプ、画面を戻るといった言葉は伝わりにくい場合があります。本人が普段使っている言葉に置き換え、説明する家族も同じ表現へ統一します。
工夫5:発信よりも着信中心に切り替える
何度練習しても発信操作が難しい場合は、家族から決まった時間に電話をかけ、本人には着信へ出てもらう運用を検討します。我が家では、発信方法を覚えてもらうことをやめたことで、本人と家族の双方が落ち着きました。
電話の終わりには、「次は明日の朝にこちらから電話するね」など、次の連絡時間を短く伝えます。家族からの電話番号は、着信画面に分かりやすい名前や写真が表示されるように設定します。
工夫6:位置情報共有は補助として使う
外出する機会がある場合は、本人と相談したうえで、スマートフォンの位置情報共有を見守りの補助として使う方法があります。我が家でも、電話がかけられないときの安否確認として、Google マップの位置情報共有を利用しました。
ただし、位置情報はスマホの電源、通信状態、設定、電池残量などによって正しく表示されないことがあります。「地図に表示されているから絶対に安全」と考えず、電話や周囲の協力と組み合わせます。
- 誰と位置情報を共有するか本人と確認する
- 共有する家族を必要最小限にする
- 充電する場所と時間を決める
- 位置情報が更新されない場合の連絡手順を決める
- 見守り目的以外には利用しない
工夫7:スマホ以外の連絡方法も準備する
スマホ一台だけに連絡手段を集約すると、電池切れや操作不能のときに困ります。本人が一人で過ごす時間がある場合は、スマホ以外の連絡方法も用意します。
- 操作しやすい固定電話を残す
- 家族や支援者の連絡先カードを携帯する
- 近所で助けを求められる相手を確認する
- 自治体や民間の緊急通報サービスを検討する
- ケアマネジャーや施設と緊急時の手順を共有する
本人がスマホから電話をかけられなくても、日常生活全体の中で連絡手段を確保できていれば、安全性を補うことができます。電話機だけで解決しようとせず、家族や地域の支援を含めて考えます。
契約や料金も家族で確認する
スマホを使いにくくなっているのに、複雑な料金プランや有料オプションが残っていることがあります。契約内容、月額料金、端末代金、有料アプリなどを家族と一緒に確認します。
知らない番号からの電話、迷惑メッセージ、偽の当選通知などへの対応も難しくなることがあります。不要な通知や購入機能を減らし、不審な請求がないか定期的に確認してください。
我が家でうまくいかなかった方法
長い壁ポスターを読んでもらう
大きな文字で詳しく書けば分かると思いましたが、手順が多いポスターは途中から読まれなくなりました。掲示物を使うなら、本人が迷う一つの操作だけに絞る方が分かりやすいと感じました。
毎回、最初から詳しく説明する
家族が電話越しに長く説明しても、途中で画面が変わると分からなくなりました。「今見えている画面で、どれを1回押すか」だけを伝える方が、本人にも家族にも負担が少なくなりました。
便利なアプリを次々に追加する
見守りや連絡に便利そうなアプリを追加すると、ホーム画面の選択肢が増えてしまいました。新しい機能を足すより、まず不要なものを減らす方が効果的でした。
以前と同じように使ってもらおうとする
「前はできていた」という思いから、発信操作を何度も練習してもらいました。しかし、できないことを繰り返すと、本人の自信や家族の余裕が失われます。最終的には、着信に出られることを残す方が、我が家には合っていました。
スマホから別の電話へ切り替える目安
スマホを使い続けること自体が目的ではありません。設定を簡単にしても次のような状態が続く場合は、より操作の少ない携帯電話や固定電話などへの切り替えを検討します。
- 着信に出ることも難しくなった
- 誤発信や切り忘れが頻繁に起きる
- 画面ロックを解除できない
- 充電ができず、連絡不能になることが増えた
- 不審な電話やメッセージへ反応してしまう
- 本人がスマホを見ること自体を嫌がるようになった
本人が使いやすいこと、安全に連絡できること、家族が無理なく支えられることの三つを基準に判断します。必要に応じて、携帯電話会社の相談窓口やケアマネジャーにも相談してください。
医療・介護へ相談した方がよい場合
スマホだけでなく、料理、買い物、金銭管理、着替えなど、日常のさまざまな操作が難しくなっている場合は、生活全体の支援を見直す時期かもしれません。家族だけで対応を続けず、かかりつけ医、もの忘れ外来、ケアマネジャー、地域包括支援センターなどへ相談します。
地域包括支援センターでは、本人だけでなく家族からの相談も受け付けています。どこへ相談したらよいか分からない場合の最初の窓口として利用できます。
認知症に関する地域の相談先は、厚生労働省の 「認知症に関する相談について」 から確認できます。
まとめ
認知症の家族がスマホを使えなくなったときは、何度も操作を覚えてもらうことだけが解決方法ではありません。必要な機能を絞り、画面を簡単にし、連絡先や説明方法を本人に合わせることから始めます。
発信が難しくなった場合でも、着信に出ることや、別の連絡手段を残すことはできます。本人のできることを大切にしながら、スマホへ生活を合わせるのではなく、本人の生活にスマホを合わせていきましょう。
実際の体験記
〖スマホ物語〗壁ポスターまで作ったのに、電話は着信専用で落ち着いた件
スマホの発信手順を壁へ貼ったものの、最終的に着信専用へ切り替えた我が家の体験を、読み物形式で紹介しています。


