介護(デイケア)の現場からのご要望により、なぞり書き「泉鏡花/婦系図(おんなけいず)」を追加いたしました。

【認知症初期の記録⑰】吸ったことを忘れて、たばこを続けて吸う母

【認知症初期の記録⑰】吸ったことを忘れて、たばこを続けて吸う母

この記事は、2021年2月8日に作成した介護認定調査用のメモをもとに、当時の出来事や家族の対応を振り返って書いています。本文では、母を「鮨子」、長男である私を「日和鷹」、妻を「日和嫁」、母の事実婚のパートナーを「Gさん」という仮名で記載しています。

母・鮨子は、長年たばこを吸っていました。認知症の症状が見られるようになってからも喫煙を続けていましたが、その吸い方には以前とは違う様子が現れていました。

たばこの存在を忘れている間は、何時間も吸わないことがあります。ところが、一度たばこを手に取って吸い始めると、吸い終えたことを忘れたように、すぐ次の一本へ火をつけるようになりました。

「さっき吸ったばかりだよ」と伝えても、母にはその記憶がありませんでした。

吸わない時間と、続けて吸う時間があった

母が一日中、一定の間隔でたばこを吸っていたわけではありません。たばこの箱や灰皿が目に入らず、吸うことを思い出さない間は、そのまま過ごしていました。

一方で、何かのきっかけでたばこを一本吸うと、そこから短い間隔で何本も続けて吸うことがありました。一本目を吸い終えた後、「今たばこを吸った」という出来事が残らず、次の一本が新しい喫煙になっていたように見えました。

これは当時の母の様子を家族が見て感じたことであり、実際に母の中でどのような認識が起きていたのかは確認できません。ただ、以前と比べて喫煙の間隔が大きく変わっていたことは分かりました。

灰皿に吸い殻が急速に増えていった

母の自宅を訪れると、灰皿に多くの吸い殻がたまっていることがありました。短い時間のうちに何本も吸ったように見える日もありました。

「今日はずいぶん吸ったんじゃない?」と尋ねても、母には何本吸ったか分かりません。自分では、それほど多く吸ったという感覚もないようでした。

家族が灰皿を見なければ、喫煙量が増えていることには気づけませんでした。本人へ一日の本数を尋ねるだけでは、実際の状況を把握することが難しくなっていました。

手元のたばこがなくなると買いに行った

一度吸い始めると次々に本数が減るため、手元にあったたばこが早くなくなります。すると母は、自分で近所のコンビニへ買いに行っていました。

この頃の母は、まだ一人で外へ出て、店で商品を選び、代金を支払うことができました。そのため、家族がたばこの箱を片づけても、自分で新しいものを購入できます。

買い物へ行けることだけを見れば、生活能力が保たれているように見えます。しかし、直前に何本吸ったのかを覚えられず、必要以上の速さで消費していることには気づけなくなっていました。

たばこ代が以前より大きく増えた

短い間隔で喫煙を繰り返し、なくなるたびに新しいたばこを買うため、たばこ代も以前より大きく増えました。金額を確認したとき、家族が驚くほどの支出になっている時期もありました。

ただし、支出のすべてが母自身の喫煙によるものだったか、誰かの分も購入していたのかまでは確認できていません。家族が把握できたのは、たばこの購入回数が増え、灰皿の吸い殻も多くなっていたことでした。

母には浪費しているつもりはありません。吸ったことを覚えていないまま次の一本へ進み、なくなったから買い足すという行動を繰り返していたように見えました。

長年の習慣と記憶の変化が重なっていた

母がたばこを続けて吸った理由を、認知症だけで説明することはできません。たばこにはニコチンが含まれ、長年の喫煙によって依存が生じている場合があります。

また、食後、電話中、気持ちが落ち着かないときなど、本人の中に長年続けてきた喫煙のきっかけがあった可能性もあります。そこへ、直前に吸ったことを覚えておくことの難しさが重なり、以前とは異なる吸い方になっていたのかもしれません。

「認知症だから何本も吸う」と単純に決めつけるのではなく、喫煙習慣、ニコチン依存、生活環境、記憶の変化を合わせて考える必要がありました。

突然たばこを取り上げればよいのか迷った

火災や健康への危険を考えると、母からたばことライターをすべて取り上げたくなります。しかし、長年喫煙してきた母に、家族の判断だけで突然禁煙を求めることにも迷いがありました。

本人に説明せず、たばこを隠すだけでは、「誰かに取られた」と感じる可能性があります。手元からなくなっても、自分で買いに行けるため、根本的な解決にもなりませんでした。

禁煙や減煙を検討する場合は、本人の意向や生活状況を確認し、かかりつけ医などへ相談しながら進める方が安全です。家族だけで薬を用意したり、本人に知らせず禁煙補助薬を使ったりすることはできません。

健康への心配より、火の心配が大きくなった

喫煙による健康への影響は以前から心配していました。しかし、この頃に家族が強く感じたのは、火の不始末による火災への不安でした。

母は一人暮らしで、家族が常に喫煙の様子を見ていることはできません。たばこへ火をつけた後、火を消したことや、吸い殻を灰皿へ入れたことを本人が覚えているかも分からなくなっていました。

前回の記事で扱ったガス台ややかんと同じように、「火をつけられること」と「最後まで安全に火を始末できること」は別の問題でした。

母の前髪が焦げていた

あるとき母の顔をよく見ると、前髪の一部が焦げたように縮れていました。美容室で髪型を変えたという様子ではなく、熱で焼けたように見えました。

母へ理由を尋ねても、本人は前髪が焦げていること自体に気づいていませんでした。何が起きたのかも覚えていません。

たばこへ火をつける際、ライターの炎が髪へ近づいた可能性を考えました。しかし、実際にその場面を見たわけではなく、ライターが原因だったと断定することはできません。

それでも、顔の近くで火を扱うことが安全ではなくなっている可能性を示す出来事として、家族には強い不安が残りました。

固定電話の周辺にも焦げ跡があった

母は固定電話で話しながら、たばこを吸うことがありました。電話機の近くを確認すると、小さな焦げ跡のようなものが残っていました。

床や周辺の物にも、熱いものが触れたような跡がありました。これらがすべてたばこによるものだったのか、いつできた跡なのかは確認できません。

ただ、母が普段たばこを吸っていた場所と重なっていたため、火のついたたばこや灰が落ちた可能性を考えました。家族が知らないところで、小さな火の不始末が何度も起きていたのではないかと心配になりました。

小さな焦げ跡で終わる保証はなかった

その時点では、大きな火災にはなっていませんでした。しかし、床や家具の小さな焦げ跡は、次も同じ程度で済むという意味ではありません。

たばこの火種が布団、衣類、紙類などへ落ちれば、すぐ炎が見えなくても、時間がたってから燃え広がる可能性があります。特に母の部屋には、書類、手提げ袋、衣類などが多く置かれていました。

火がついた直後に気づけなければ、本人が寝てしまったり、外出したりした後に火災になるおそれもあります。家族として、見守りのない室内で喫煙を続けることを、そのままにできない状態でした。

寝たばこをしていないかも心配だった

母が実際に布団やベッドの中でたばこを吸っていた場面を見たわけではありません。しかし、喫煙場所が一定ではなくなっていたため、寝室へたばこやライターを持ち込んでいないかも心配になりました。

眠気があるときや、飲酒後、横になった状態での喫煙は、火種を寝具へ落としても気づきにくくなります。寝具の近くでは、たばこを吸わない環境へ変える必要がありました。

本人へ「寝たばこはしないで」と伝えるだけでは、説明したことを忘れてしまう可能性があります。寝室へ灰皿やライターを置かないなど、環境側の対策も必要でした。

喫煙する場所を一か所に絞った

母がすぐに禁煙することが難しい場合でも、室内のどこでも吸える状態は避けなければなりません。そこで、喫煙する場所をできるだけ一か所に絞ることを考えました。

周囲に紙、衣類、布団などの燃えやすい物を置かず、安定した灰皿を決まった場所へ置きます。電話をしながら室内を歩いて吸うことや、たばこをくわえたまま別の部屋へ移動することも避ける必要がありました。

ただし、場所を決めても、母が毎回その場所を使えるとは限りません。家族が訪問した際に、灰皿や焦げ跡の場所を確認し、環境を戻す必要がありました。

灰皿と吸い殻の扱いを見直した

灰皿に吸い殻をためておくと、完全に消えていない火種が、ほかの吸い殻へ燃え移る可能性があります。そのため、吸い殻を大量にためず、こまめに処分することが必要でした。

灰皿には水を入れ、火が完全に消えたことを確認します。吸い殻をごみ箱へ移す場合も、水につけるなどして、熱や火種が残っていないことを確認してから処分します。

灰皿の中へ紙くずなどを一緒に捨てないことも重要でした。ただ、こうした手順を母一人へ任せることは難しくなっていたため、家族が訪問時に確認する必要がありました。

たばことライターの置き方も見直した

たばこの箱が何個も目に入る場所へ置かれていると、母が見つけるたびに吸うきっかけになる可能性があります。一方で、本人へ説明せずすべて隠せば、探し物や疑いにつながる心配があります。

そこで、本人と話せる範囲で、手元へ置く量や保管場所を家族と一緒に見直す必要がありました。ライターも複数の場所へ置かず、使う場所を限定します。

これは喫煙を認めて放置するためではなく、すぐに禁煙できない間にも、火災の危険を少しでも減らすための対応でした。

住宅用火災警報器を確認した

火の危険がある生活では、住宅用火災警報器の設置と作動確認が欠かせません。設置されているだけで安心せず、ボタンやひもを使って警報音が鳴るか定期的に確認する必要があります。

消防庁は、住宅用火災警報器について、設置後10年を目安に交換するよう案内しています。高齢者が一人で暮らしている場合は、別の部屋でも警報が鳴る連動型や、音や光で知らせる補助警報装置を検討する方法もあります。

ただし、警報器は火災を知らせるためのものであり、喫煙中の火の不始末そのものを防ぐものではありません。火を出さない対策と組み合わせる必要があります。

消火器を置くだけでは足りない

万一に備えて、住宅用消火器を使いやすい場所へ置くことも考えられます。しかし、母が一人で消火器を正しく使えるとは限りません。

火災が起きたときは、初期消火より避難を優先すべき状況もあります。炎や煙が広がっているのに、本人が無理に消そうとすれば危険です。

消火器を設置する場合は、家族も置き場所と使い方を確認します。同時に、避難経路を物でふさがないことや、火災を発見したら119番通報することも確認する必要があります。

私たちが確認したこと

  • 一度吸い始めた後、短時間に何本吸っているかを見る
  • 灰皿へ吸い殻が大量にたまっていないか確認する
  • 吸い殻が完全に消えているか確認する
  • 電話機、床、家具、寝具などに焦げ跡がないか見る
  • 寝室へたばこやライターを持ち込んでいないか確認する
  • 燃えやすい物の近くで喫煙していないか確認する
  • 住宅用火災警報器の設置場所と作動状態を確認する
  • 購入回数や支出が急に増えていないか確認する

すべてを一度に変えることは難しくても、小さな焦げ跡や喫煙量の変化を見過ごさず、生活環境を見直すことが必要でした。

今なら早めに行いたい対策

  • 喫煙場所を一か所に決め、周囲の可燃物を取り除く
  • 寝室や布団の近くでは吸わない環境にする
  • 安定した灰皿に水を入れ、吸い殻をためない
  • 吸い殻は水につけ、完全に消火してから処分する
  • たばことライターを何か所にも置かない
  • 本人と相談しながら、手元へ置く量を見直す
  • 住宅用火災警報器を点検し、古いものは交換する
  • 住宅用消火器を検討し、家族が使い方を確認する
  • 禁煙や減煙について、かかりつけ医へ相談する
  • 一人での喫煙が危険になった場合は、生活環境や見守り体制を見直す

本人が認知症であっても、長年続けてきた喫煙を家族の判断だけで急に変えることには難しさがあります。一方で、火の安全を守れない状態を放置することもできません。

本人の気持ちを確認しながら、医師、ケアマネジャー、地域包括支援センターなどへ相談し、健康面と生活上の安全を分けずに考える必要があります。

禁煙を考えるときは医療者へ相談する

喫煙を繰り返す背景には、認知症による記憶の変化だけでなく、ニコチン依存が関係している場合があります。家族が「今日から吸わないで」と伝えるだけで、簡単にやめられるとは限りません。

禁煙を望んでいる場合や、火の危険から喫煙を続けることが難しくなった場合は、かかりつけ医や禁煙支援を行う医療機関へ相談する方法があります。本人の持病、服薬、認知機能、生活状況を踏まえて、対応を検討してもらうことが大切です。

市販薬や禁煙補助薬についても、本人の判断だけ、または家族の判断だけで使用せず、医師や薬剤師へ確認します。

火災が起きたとき

煙や炎を確認した場合は、無理に消火を続けず、安全な場所へ避難して119番へ通報してください。煙を吸った、やけどをした、意識や呼吸に異常がある場合も、すぐに救急へ連絡してください。

小さな焦げ跡は、一人暮らしを見直すサインだった

母の前髪や床の焦げ跡が、すべてたばこによるものだったとは断定できません。しかし、原因を本人に尋ねても分からず、同じことが再び起きる可能性を防げない状態でした。

たばこへ火をつけることができるから、まだ大丈夫。自分で買いに行けるから、本人に任せられる。そのようには考えられなくなっていました。

火を扱ったことを覚え、安全に消し、周囲へ火種が落ちていないことを確認するところまでできるかを見る必要がありました。

小さな焦げ跡で済んでいるうちに対応を変えることが、母だけでなく、同じ建物で暮らす周囲の方の安全を守ることにもつながります。この頃は、母の一人暮らしを今後も同じ形で続けられるのか、家族が真剣に考え始めた時期でもありました。

この記事について

この記事は、母と家族の介護経験を記録したものです。喫煙量が増えたことや、吸ったことを忘れたように見えることだけで、認知症の進行を判断することはできません。喫煙方法の変化、焦げ跡、やけど、火の消し忘れなどがある場合は、本人を責めるだけで終わらせず、かかりつけ医や介護の相談窓口、地域の消防署などへご相談ください。

次回は、長年通った道が分からなくなった話

この頃の母は、まだ一人で電車やバスに乗り、Gさんの自宅や買い物先へ出かけていました。長年使ってきた道や駅も、完全に忘れていたわけではありません。

しかし、乗り換えの途中などで、次にどこへ向かえばよいのかが突然分からなくなり、家族へ行き方を尋ねることが増えました。

都営交通で利用できる乗車証を持っていても、提示することを忘れ、通常の切符を買って乗ることもありました。

次回は、長く通ってきた経路の一部が分からなくなり、後の迷子にもつながっていった外出時の変化を振り返ります。

認知症初期の記録

前回の記事では、すき焼きの具材を思い出せず、魚の焦げややかんの空焚きが増え、ガス台を使わない生活へ切り替えた時期を振り返っています。

【認知症初期の記録⑯】すき焼きの具材を思い出せない母と、増えていった料理の失敗

参考情報

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