この記事は、2021年3月19日に残した家族間の連絡メモをもとに、当時の出来事や私が感じていた不安を振り返って書いています。本文では、母を「鮨子」、長男である私を「日和鷹」、母の事実婚のパートナーを「Gさん」、親戚を「女将おばちゃん」「こあらちゃん」という仮名で記載しています。
2021年3月19日頃、母・鮨子との電話の中で、少し気になる話が出てきました。
母の事実婚のパートナーであるGさんが、親戚の女将おばちゃんからお金を借りられないか、母に相談しているというのです。
母から聞いた金額は、400万円ほどでした。
「女将おばちゃんに、400万円くらい貸してもらえないかなって言っているの」
ただし、この話には最初から大きな前提があります。
私がGさん本人から直接聞いた話ではありません。すでに認知症が進み始めていた母から聞いた内容です。
そのため当時も、親戚のこあらちゃんへ連絡するときには、「鮨子の言っていることなので、100%真実かは分からない」という前置きをしました。
この記事でも、確認できたことと、母から聞いたこと、私が当時感じたことを分けて書いていきます。
母の話では「仕事がなく、年金で返す」ということだった
母から聞いた話では、Gさんの仕事が不景気で、十分な収入が得られていないということでした。
そのため、女将おばちゃんから数百万円を借り、年金から少しずつ返していけないかという話だったようです。
母は、Gさんから女将おばちゃんへ連絡をつないでほしいと頼まれたとも話していました。
そして実際に、女将おばちゃんへ何度か電話をしてみたものの、つながらなかったとも言っていました。
ただし、これらはいずれも母から聞いた内容であり、Gさん本人や女将おばちゃんから当時直接確認したものではありません。
女将おばちゃんは、すでに商売の第一線を退いていた
女将おばちゃんは、長く商売をしてきた親戚でした。
親戚の中では経済的に余裕があると思われていたこともあり、「お金を借りられる相手」として名前が出たのかもしれません。
しかし、娘のこあらちゃんからは以前から、女将おばちゃんはすでに商売の第一線を退いており、お金を自由に動かせるような立場ではないと聞いていました。
そこで私は、母から聞いた内容をこあらちゃんへ伝えました。
もし女将おばちゃんへ実際に連絡があった場合には、こちらにも知らせてもらうようお願いしました。
私が心配したのは「なぜ母を間に入れるのか」だった
金銭的に困っている人が、親戚へ借金の相談をすること自体はあり得る話です。
しかし、私が強く気になったのは、認知症が進み始めていた母を間に入れて話を進めようとしているように見えたことでした。
もし本当に借入の相談をしたいのであれば、Gさん本人が相手へ事情を説明し、返済方法を含めて直接相談することもできたはずです。
ところが私が母から聞いた話では、母に電話をかけさせ、親戚との橋渡しをしてもらおうとしていました。
当時の私には、それが非常に不自然に感じられました。
400万円をどう返すのかも理解できなかった
母の話では、Gさんの年金額は母と大きく変わらず、2か月で7万円程度とのことでした。
その話が正しいとすれば、年金から生活費を払いながら400万円を返済するという計画は、私には現実的には思えませんでした。
事業を続けるために借金を増やすよりも、仕事や生活そのものを立て直す方法を考えた方がよいのではないか。
私はそのように考え、母にも無理な借金へ協力しないよう話しました。
もちろん、母から聞いた情報だけではGさんの本当の収入や資産、事業の状況まで分かりません。そのため、返済能力がなかったと断定するものではありません。
母は、人から頼まれると断ることが苦手だった
私がさらに心配した理由には、母のもともとの性格もありました。
鮨子は、人から頼まれると断ることが得意ではありませんでした。
義理人情に厚く、「困っているなら何とかしてあげたい」と考える人でした。
一方で、金融商品や契約条件を比較し、本当に必要なのかを判断することはあまり得意ではありませんでした。
以前から生命保険などの営業を断りきれず、契約を見直したり乗り換えたりすることもありました。
コツコツとお金を貯めることはできるのに、人に勧められたり頼まれたりすると、そのお金を守る判断が難しくなる。
家族から見ると、そのような危うさが以前からありました。
そこへ認知症による判断の難しさが加わった
この頃には、母のお金の扱いにはすでに大きな変化が出ていました。
財布に現金があるのに「お金がない」と言う。
買い物のたびに一万円札を出し、小銭が増え続ける。
自分で下ろしたお金について、「長男が使ったのではないか」と疑う。
通帳を家族へ預けることにも強い抵抗を示す。
それまでの記事で振り返ってきたように、金銭管理を一人で続けることは難しくなっていました。
そこへ「困っているGさんを助けたい」という母の気持ちが加われば、大きなお金でも渡してしまうのではないか。
私はそう心配するようになりました。
この時点では、Gさんが母のお金を取ったと断定できなかった
今振り返ると、この頃から私はGさんへの不信感をかなり強めていました。
しかし、記事を書く現在も、この2021年3月の出来事だけをもって、Gさんが母をだました、母のお金を不正に取ろうとした、と断定することはできません。
確認できているのは、当時、母が私へ「Gさんが女将おばちゃんから400万円ほど借りられないか相談している」と話したことです。
そして私は、その話を親戚へ共有し、もし実際に連絡があれば知らせてもらうことにしました。
結果として、このとき女将おばちゃんからGさんへ400万円が渡ったという事実は確認していません。
確認できたこと
- 母から、400万円ほどの借入相談について聞いた
- 母は女将おばちゃんへ電話したと話していた
- 私はこあらちゃんへ内容を共有した
- このとき実際に400万円が貸された事実は確認していない
一方で、「Gさんが母を利用して親戚から金を借りようとしているのではないか」と感じた部分は、当時の私の受け止めです。
この二つは分けて残しておく必要があります。
それでも、家族として見過ごせなくなっていった
一度だけの話であれば、事情を確認して終わっていたかもしれません。
しかし、その後もGさんと母のお金をめぐる出来事は繰り返されました。
母を通して金銭の要求が伝えられる。
家族が預かった通帳について、「返してやれ」「泥棒だ」と言われる。
親戚へ、私が母のお金を取っているという話が伝わる。
こうした出来事が重なっていきます。
そのたびに私は、「母のお金をどう守ればよいのか」「どこまで家族が管理してよいのか」という問題に悩むことになります。
後には地域包括支援センターや社会福祉協議会、銀行へ相談し、成年後見制度なども検討することになりました。
2021年3月のこの出来事は、その後長く続く資産管理の問題の、最初の大きな警戒信号の一つだったように思います。
認知症の本人を「伝言役」にしないこと
この経験から強く感じたのは、重要なお金の話に、認知症の本人を伝言役として挟まない方がよいということです。
本人はその場では話を理解できても、相手が何を言ったのか、金額はいくらだったのか、どの条件で約束したのかを正確に保てない場合があります。
母の場合も、電話で話した内容をその後忘れたり、自分で書いたメモを見ても意味が分からなくなったりすることが増えていました。
誰かから金銭の相談があった場合には、家族へ直接連絡してもらう。
本人だけで返事をせず、一度持ち帰る。
金額や条件を紙に残し、家族も確認する。
こうした仕組みをもっと早く作っておけばよかったと思います。
今なら早めに行いたい対応
- 本人から大きなお金の話を聞いたら、すぐ否定せず内容を確認する
- 誰から、いくら、何の目的で頼まれたのかを書き残す
- 可能であれば相手本人へ直接事実確認する
- 親戚が関係する場合は、家族間でも情報を共有する
- 本人だけで大きな金額を判断しない仕組みを作る
- 預金の大きな出金が続いていないか確認する
- 契約書、借用書、領収書などが残っていないか確認する
- 本人の意思を無視してすべてを取り上げるのではなく、支援が必要な範囲を考える
認知症があるからといって、本人のお金を家族が自由に扱ってよいわけではありません。
一方で、一人で重要な判断をすることが難しくなり、財産管理に具体的な危険が生じている場合には、家族だけで抱え込まず、地域包括支援センターなどへ相談することも必要になります。
私がこの頃からGさんを信用できなくなった理由
母とGさんは、長い年月を一緒に過ごしてきました。
私自身も、それまではGさんを、口数は少ないけれど穏やかな人だと思っていました。
だからこそ、母が認知症になった後も、二人なりに支え合って暮らしていけるのではないかという期待がありました。
しかし、お金の話を母に頼むこと、家族へ直接相談しないこと、母が判断しにくくなっている状況でも大きな金額の話が出てくることに、次第に強い違和感を覚えるようになりました。
この段階ではまだ、「何か決定的な出来事が起きた」というより、小さな不一致や違和感が積み重なっていた時期です。
その違和感は、その後の介護をめぐるGさんとの関係の中で、さらに大きくなっていきました。
この記事について
この記事は、2021年当時に残したメモと家族の記憶をもとにした介護記録です。記事中の借入相談について、Gさんによる違法行為、不正取得、経済的虐待などを認定するものではありません。本人から直接確認できなかった内容については、その旨を明記し、当時確認できた事実と家族の受け止めを分けて記載しています。
次回は、幼なじみから電話がかかってきた話
金銭や介護の問題が少しずつ増えていく一方で、母の人生の長さを感じる出来事もありました。
2021年5月、私の知らない女性から実家へ電話がありました。
最初は詐欺などを疑いましたが、その人は母が小学生の頃から付き合いのあった幼なじみ、祥子さん(仮名)でした。
祥子さんは母へ何度か電話をしてくれました。
しかし、電話を受けた母は、そのことを覚えていませんでした。
ほかの古い友人からも、「すっちゃんは元気で暮らしてね」と、涙声の留守番電話が残されることがありました。
次回は、昔からの友人を思い出せなくなっていく母と、今になって「もっと会わせてあげればよかった」と感じている出来事を振り返ります。
認知症初期の記録
前回までの記事では、2021年2月の介護認定調査用メモをもとに、金銭管理、医療、手続き、日常生活に現れていた認知症初期の変化を振り返っています。


