介護(デイケア)の現場からのご要望により、なぞり書き「泉鏡花/婦系図(おんなけいず)」を追加いたしました。

認知症の家族が自宅や施設内で迷子になるときの対策|実際に試した7つの工夫

外出先からマンションまでは戻れたのに、自分の部屋が分からない。介護施設の廊下で、自分の居室とは違う方向へ歩いてしまう。認知症が進むと、慣れた場所でも迷うことがあります。

我が家でも、母が買い物からマンションへ戻ったものの、自宅の号室が分からなくなり、近隣のお宅のインターホンを押してしまったことがありました。建物までは認識できても、似たドアが並ぶ廊下から自分の家を見つけることが難しくなっていたのです。

そこで、自宅ドアの写真を使ったカード、号室の大きな表示、近隣や管理人さんへの情報共有など、いくつかの工夫を試しました。この記事では、自宅やマンション、介護施設内で迷うときの対策と、外出後に行方が分からなくなった場合への備えをまとめます。

本記事は家族の介護体験をもとにした一般的な情報です。急に場所が分からなくなった、会話や歩行にも急な変化がある、発熱・痛み・転倒などが疑われる場合は、認知症の進行だけと決めつけず、医療機関へご相談ください。

なぜ慣れた場所でも迷ってしまうのか

認知症では、現在いる場所や時間、周囲との位置関係が分かりにくくなることがあります。建物の外観や最寄り駅は覚えていても、エレベーターを降りた後に左右のどちらへ進むのか、自宅が何号室なのかを判断できない場合があります。

特に、同じ色や形のドアが並ぶマンションや、似た廊下が続く介護施設では、本人が頼りにしていた目印を見つけにくくなります。照明が暗い、時間帯が違う、荷物を持っているなどの小さな変化も、迷いやすさにつながることがあります。

本人は理由なく歩き回っているのではなく、「自宅へ帰る」「トイレへ行く」「家族を探す」など、本人なりの目的を持って移動していることもあります。まずは、どこへ行こうとしていたのかを落ち着いて確認します。

最初に確認したいこと

迷う場所や時間帯を数日間記録すると、対策が必要な場所を絞りやすくなります。すべての場所へ目印を増やす前に、本人がどの時点で分からなくなるのかを確認します。

  • 建物の入口までは一人で戻れるか
  • エレベーターの階を選べるか
  • エレベーターを降りた後の方向が分かるか
  • 自宅や居室のドアを見分けられるか
  • 昼間と夕方・夜間で違いがあるか
  • 買い物袋などの荷物を持つと迷いやすくなるか
  • 視力や聴力、歩行状態に変化がないか

介護施設で起きている場合は、職員に「いつ、どこで、どの方向へ進んだか」を確認します。本人の生活動線に合わせて対策を考える方が、掲示物を増やすだけより効果的です。

工夫1:自宅や居室のドアを見分けやすくする

同じ形のドアが並んでいる場合は、自宅や居室だけに分かりやすい目印を付けます。本人が昔から親しんでいる色、花、動物、趣味の道具など、本人に意味があるものを選びます。

  • 号室を大きな数字で表示する
  • 本人が好きな花や動物の写真を貼る
  • 玄関マットやドア飾りを目印にする
  • 施設では本人の若い頃の写真や好きな絵を使う
  • 目印の位置を本人の目線の高さへ合わせる
マンションや賃貸住宅では、共用廊下や玄関ドアへの掲示に管理規約上の制限がある場合があります。貼り付ける前に、管理会社や管理組合へ確認してください。

我が家では、号室の数字だけでなく、自宅ドアそのものの写真を使いました。番号の意味が分からなくなっても、「このドアを探す」という形なら判断しやすい場合があります。

工夫2:自宅ドアの写真カードを持ってもらう

外出時には、自宅ドアの写真、建物名、号室、家族の連絡先を載せたカードを持ってもらいます。本人がカードを見て帰宅するだけでなく、困ったときに周囲の人へ見せられる点も大切です。

写真カードへ載せる内容の例

  • 自宅ドアの写真
  • 建物名と号室
  • 「この部屋へ帰ります」という短い文章
  • 家族の電話番号
  • 困ったときにカードを見せる相手

カードには必要以上の個人情報を載せず、本人の状態や生活環境に合わせて内容を決めます。住所をすべて書くことに不安がある場合は、管理人室や家族へ連絡してもらうための電話番号だけを記載する方法もあります。

工夫3:案内表示は短く、一つの内容に絞る

「エレベーターを降りたら右へ曲がり、三つ目のドア」という長い説明は、途中で分からなくなることがあります。掲示物は一枚に一つの案内だけを書きます。

案内表示の例

「家はこちら →」

「304 この花のドアです」

「分からないときは管理人さんへ」

文字だけでなく、矢印や写真を組み合わせます。ただし、掲示物が増えすぎると必要な目印が埋もれるため、本人が実際に使えるものだけを残します。

工夫4:迷いやすい動線を一緒に歩く

家族や施設職員が本人と一緒に歩き、どこで立ち止まるか、どの表示を見ているかを確認します。家族には分かりやすい場所でも、本人には別の景色に見えている可能性があります。

  • 建物入口から自宅まで一緒に歩く
  • エレベーターの階ボタンを押せるか確認する
  • 降りた後に左右のどちらを見るか確認する
  • 夜間の照明でも目印が見えるか確認する
  • トイレや食堂から居室までの動線を確認する

本人を試験するように「自分の部屋はどこ?」と尋ね続けるのではなく、普段どおり一緒に歩きながら、自然な行動を確認します。

工夫5:近隣・管理人・施設職員と情報を共有する

家族だけで見守れる時間には限界があります。本人がよく利用する管理人室、近隣住民、店舗、介護施設などへ、必要な範囲で状況を伝えておきます。

「認知症なのでお願いします」と広く伝えるのではなく、「自宅の部屋が分からなくなることがある」「困っている様子なら家族へ連絡してほしい」など、具体的にお願いする方が協力してもらいやすくなります。

情報共有の例

「母が自宅の号室を迷うことがあります」

「別のお宅のインターホンを押してしまったときは、こちらへご連絡ください」

「本人を強く注意せず、『一緒に確認しましょう』と声をかけていただけると助かります」

個人情報は必要最小限にし、本人の気持ちにも配慮します。介護施設の場合は、職員間で声かけや誘導方法を統一してもらいます。

工夫6:見守りシールや連絡先を身につける

外出中に道が分からなくなった場合へ備え、衣服、靴、かばんなどに連絡先が分かるものを付ける方法があります。自治体によっては、登録番号や二次元コードが付いた見守りシールを交付しています。

  • かばんへ緊急連絡カードを入れる
  • 靴や衣服へ見守りシールを付ける
  • 本人が嫌がらない位置やデザインを選ぶ
  • 古い電話番号のままになっていないか確認する
  • 発見者へ病名を直接知らせない仕組みも検討する

お住まいの自治体に制度があるか分からない場合は、地域包括支援センターや自治体の高齢者福祉担当窓口へ相談します。

工夫7:GPSと行方不明時の情報を事前に準備する

外出する機会があり、帰宅できなくなる心配がある場合は、本人と相談したうえでGPS端末やスマートフォンの位置情報共有を検討します。GPSは発見を助ける手段ですが、充電切れ、持ち忘れ、通信状況などで確認できないこともあります。

GPSだけに頼らず、警察や支援機関へすぐ伝えられる情報も準備しておきます。

事前に準備しておく情報

  • 最近撮影した顔写真と全身写真
  • 身長、体格、髪形
  • よく着る上着、靴、かばん
  • よく行く店、公園、駅、以前住んでいた場所
  • 氏名や住所を答えられるか
  • 持病、服薬、歩行上の注意
  • スマートフォンやGPSの情報

自治体によっては、行方不明になるおそれのある方の情報を事前登録し、警察や地域包括支援センターなどと連携する仕組みがあります。実際に行方不明になる前に相談しておくと、家族も動き方を確認できます。

我が家でうまくいかなかった方法

号室だけを何度も覚えてもらう

「304だから覚えてね」と何度も伝えても、帰宅した場面では数字と自宅のドアが結びつかないことがありました。数字だけでなく、写真や本人にとって意味のある目印を組み合わせる方が分かりやすいと感じました。

長い説明を書いた紙を持たせる

詳しく書けば安心だと思いましたが、困っているときに長い文章を読むことは難しい場合があります。「このカードを人に見せる」「このドアを探す」など、一つの行動へ絞る方が使いやすくなりました。

間違えたことを強く注意する

別の部屋のインターホンを押したことを叱っても、次回の迷子を防げるとは限りません。不安や恥ずかしさだけが残ることもあります。まず本人の安全を確保し、落ち着いて自宅へ案内します。

外出をすべて禁止する

迷子が心配だからと、本人の外出を急にすべて止めると、生活の楽しみや運動の機会まで失われることがあります。付き添い、時間帯、移動範囲、見守りサービスなどを組み合わせ、安全に続けられる方法を専門職と相談します。

行方が分からなくなったときの対応

自宅周辺や建物内を確認しても見つからず、本人の居場所が分からない場合は、家族だけで長時間探し続けないことが大切です。交通事故、転倒、熱中症や低体温症などの危険が考えられる場合は、早めに警察へ連絡します。

  1. 最後に確認した時刻と場所を整理する
  2. 当日の服装、靴、かばんを確認する
  3. スマートフォンやGPSの位置情報を確認する
  4. よく行く場所や以前住んでいた場所を確認する
  5. 警察へ連絡し、必要に応じて行方不明者届を出す
  6. ケアマネジャー、施設、地域包括支援センターへ連絡する
  7. 見守りネットワークへ登録している場合は利用する
本人の生命や身体に危険が迫っている可能性がある場合は110番へ連絡します。緊急性の判断に迷う場合や、行方不明者届については、最寄りの警察署へ相談してください。

警察へは、最近の写真、服装、持ち物、行きそうな場所、認知症の状態、携帯電話やGPSの情報などを伝えます。見つかった場合は、警察や捜索に協力した関係者へ速やかに連絡します。

医療・介護へ相談した方がよい場合

自宅や施設内で迷う回数が増えた場合は、生活環境だけでなく、認知機能、視力、聴力、歩行状態、服薬なども含めて確認します。

  • 以前は迷わなかった場所で急に迷うようになった
  • 昼間でも自宅の場所が分からなくなる
  • 外出後に帰宅できないことが増えた
  • 転倒や交通事故の危険がある
  • 幻覚や強い思い込みが増えた
  • 家族だけでは見守りを続けられない

相談先としては、かかりつけ医、もの忘れ外来、担当のケアマネジャー、地域包括支援センター、自治体の高齢者福祉担当窓口などがあります。本人が一人で暮らしている場合は、早めに生活全体の支援体制を見直します。

認知症に関する地域の相談先は、厚生労働省の 「認知症に関する相談について」 から確認できます。

まとめ

認知症の家族が自宅や施設内で迷うときは、本人に場所を何度も覚えてもらうだけでは解決しないことがあります。ドアの写真、本人になじみのある目印、短い案内表示など、環境側を分かりやすく整えることが大切です。

あわせて、近隣や施設との情報共有、見守りシール、GPS、自治体の事前登録制度などを組み合わせます。家族だけで見守ろうとせず、本人が安心して生活や外出を続けられる仕組みを地域と一緒に作っていきましょう。

実際の体験記

〖マンション迷子事件簿〗母、帰宅時に自分の部屋が分からずご近所へ「ただいま」

マンションへ戻った母が自宅の号室を見つけられず、近隣のお宅を訪ねてしまった出来事と、ドアの写真カードを試した経緯を読み物形式で紹介しています。

マンション迷子の体験記を読む

参考情報

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