この記事は、2021年2月8日に作成した介護認定調査用のメモをもとに、当時の出来事や家族の対応を振り返って書いています。本文では、母を「鮨子」、長男である私を「日和鷹」、妻を「日和嫁」、母の事実婚のパートナーを「Gさん」という仮名で記載しています。
母・鮨子がアルツハイマー型認知症と診断されて間もない頃、郵便物の扱いにも少しずつ変化が現れていました。
あるとき母の部屋には、区役所から送られてきた郵便物の封筒が残されていました。
ところが、封筒の中には何も入っていません。
母は空の封筒を見て、区役所へ電話をかけていました。
「封筒はあるのに、中身が何も入っていないんです」
中の書類を母自身が取り出した後、別の場所へ置いたのか、すでに処分したのかは分かりませんでした。
少なくとも母の中では、「区役所から空の封筒が送られてきた」という出来事になっていたようです。
中身のない封筒を捨てずに取っていた
母は、郵便物の中身がなくなっても、封筒だけを捨てずに取っておくようになっていました。
封筒には送り主の名前、住所、電話番号などが印刷されています。
母には、それが大切なものに見えていたのかもしれません。
しかし、封筒と中の書類を一つの郵便物として管理することは難しくなっていました。
書類だけを別の場所へ移し、後から空の封筒を見つけると、「最初から中身が入っていなかった」と思ってしまいます。
家族が「自分で取り出したんじゃないの」と説明しても、母には書類を取り出した記憶がありません。
本人にとっては、本当に空の封筒が届いたように感じられていたのだと思います。
分からないことは、自分で電話して確認していた
母は以前から、分からないことがあれば自分で問い合わせる人でした。
封筒に区役所の電話番号が書かれていれば、そこへ電話をかけます。
電話番号を読み、固定電話を操作し、相手へ質問する力はまだ残っていました。
そのため、周囲から見ると、手続きを自分で行えているようにも見えます。
しかし実際には、目の前にある封筒が何のためのものなのか、中の書類をどうしたのか、何を確認すればよいのかを整理することが難しくなっていました。
電話をかけられることと、手続きの内容を理解して対応できることは、同じではありませんでした。
公共料金や保険のお知らせも放置するようになった
分からなくなっていたのは、区役所からの郵便物だけではありません。
公共料金、生命保険、損害保険などから届くお知らせについても、内容を理解できないまま置かれていることが増えました。
封筒を開けてあることもあれば、未開封のまま積まれていることもあります。
母に尋ねると、次のような答えが返ってきました。
「これは何だか分からないの」
「あとで見ようと思っていたのよ」
「大事そうだから取ってあるの」
母は、郵便物を無視しようとしていたわけではありません。
大切そうな書類だということは分かるものの、読んだ後に何をすればよいのか判断できず、そのままになっていたのだと思います。
「分からないから捨てる」のではなく、「分からないから触れずに残しておく」という状態でした。
文字を読めても、必要な行動へつながらない
郵便物には、さまざまな情報が書かれています。
- 誰から届いたものなのか
- 何についてのお知らせなのか
- 返信や支払いが必要なのか
- 手続きの期限があるのか
- どこへ連絡すればよいのか
- 保管すべき書類なのか
通常であれば、書類を読んで内容を理解し、必要な行動を選びます。
しかし母は、文字を読むことができても、書かれている内容を自分の生活と結びつけ、次の行動へ移すことが難しくなっていました。
認知症では、状況や説明を理解することや、手続きを進めることが難しくなる場合があります。
母の場合も、「文字が読めない」のではなく、「読んだ後に何をすればよいのか分からない」という変化だったように思います。
本人からは、困っているように見えなかった
郵便物が積まれていても、母が自分から家族へ助けを求めることはあまりありませんでした。
「分からない書類があるから見てほしい」と連絡してくれれば、家族も早い段階で対応できます。
しかし母自身は、手続きを一人で進めることが難しくなっているという認識が、十分にはなかったのだと思います。
書類を取っておけば、後で確認できる。
必要になれば、役所や会社へ電話すればよい。
そのように考えていたのかもしれません。
表面的にはそれまでと同じ生活が続いていたため、家族も郵便物の処理が難しくなっていることに気づくまで時間がかかりました。
重要な連絡を家族も把握できるようにした
郵便物を母だけに任せることに不安を感じるようになり、家族で対応方法を見直しました。
公共料金や保険などについては、可能なものから送付先や連絡先の変更を依頼しました。
母の自宅へすべての書類が届いた後に家族が探すのではなく、重要な連絡を家族も把握できる形へ少しずつ変えていきました。
ただし、すべての郵便物の送付先を変更できたわけではありません。
本人宛てでなければならない書類や、本人の確認が必要な手続きもあります。
そのため、母の自宅へ届く郵便物についても、訪問した際に確認するようになりました。
実際の手続きは日和嫁が対応してくれた
書類の確認や各所への連絡、必要な手続きは、日和嫁が中心となって対応してくれました。
母の手元にある封筒や通知を確認し、何についての書類なのかを調べます。
電話で済むものは問い合わせ、申請書が必要なものは記入方法を確認します。
本人確認や母の署名が必要な場合は、母にも一つずつ説明しながら手続きを進めました。
一件だけであれば、それほど大きな負担には見えないかもしれません。
しかし、公共料金、保険、行政手続きなど、種類の異なる書類が次々に届きます。
どこまで対応したのか、次に何をするのかを家族側で管理する必要もありました。
郵便物の対応は、母に代わって書類を読むだけではなく、家族の新しい仕事の一つになっていきました。
役所での丁寧な対応に助けられた
電話や郵送だけでは完了できず、母本人が区役所へ行く必要がある手続きもありました。
その際は、母を一人で行かせず、家族が一緒に出向くようにしました。
窓口の職員の方々は、母の様子に合わせて丁寧に対応してくださいました。
一度に多くの説明をするのではなく、必要な内容をゆっくり話し、確認しながら進めてくれます。
母に直接尋ねる部分と、付き添う家族へ確認する部分を分けて対応してくれたこともありました。
家族からの説明だけでは母が納得できないときも、職員の方から穏やかに説明してもらうことで、手続きを進められることがありました。
当時の私たちにとって、役所の窓口で丁寧に接してもらえたことは、大きな助けでした。
すべてを家族が取り上げればよいわけではない
郵便物や手続きを家族が管理するようになると、「本人には何も見せない方が安全なのでは」と考えたくなることがあります。
しかし、母の生活に関する通知であり、本来は母自身に関係する情報です。
家族が説明せずに書類を処分したり、本人の意思を確認せず手続きを進めたりすれば、母は自分の生活を奪われたように感じるかもしれません。
私たちも、どこまで母に任せ、どこから家族が引き受けるのか迷いました。
最終的には、母が理解できる範囲では本人にも内容を伝え、難しい部分を家族が補う形を目指しました。
毎回うまくできたわけではありませんが、「できないから全部取り上げる」のではなく、「できる部分を残しながら支える」ことが必要だったのだと思います。
私たちが行った対応
- 母の自宅を訪れた際に郵便物を確認する
- 重要な封筒と中の書類を一緒に保管する
- 終了した手続きと、未対応の書類を分ける
- 可能なものは送付先や家族の連絡先を変更する
- 手続きの内容と対応状況を家族側で記録する
- 本人確認が必要な手続きは母と一緒に行う
- 役所へ出向く際は家族が付き添う
家庭によって、本人の状態、家族との距離、届く郵便物の量、必要な手続きは異なります。
家族だけで管理することが難しい場合は、ケアマネジャー、地域包括支援センター、自治体の高齢者相談窓口などへ相談する方法もあります。
今なら早めに作っておきたい仕組み
当時は、届いた書類へ一件ずつ対応するだけで精いっぱいでした。
今振り返ると、次のような簡単な仕組みを早めに作っておけば、家族の負担を少し減らせたかもしれません。
- 郵便物を置く場所を一か所に決める
- 「未確認」「対応中」「保管」の三つに分ける
- 期限のある書類はスマホで撮影して残す
- 家族間で対応した日と内容を共有する
- 不要な封筒は、中身を確認してから処分する
- 知らない会社や不審な請求は、すぐ相手へ電話しない
不審な請求や、身に覚えのない契約に関する郵便物が見つかった場合は、記載された連絡先へすぐ電話するのではなく、消費生活センターなどへ相談した方が安全なことがあります。
消費者ホットライン「188」へ電話すると、地域の消費生活センターや消費生活相談窓口につながります。
この記事について
この記事は、母と家族の介護経験を記録したものです。郵便物の扱いや手続きが難しくなる原因は、認知症だけとは限りません。急な変化がある場合や、生活上の重要な手続きを繰り返し忘れる場合は、かかりつけ医や地域の相談窓口へ相談してください。
次回は、不用品回収業者との訪問約束
役所や公共料金から届く正規のお知らせは理解しにくくなっていた一方で、母はセールス電話の相手とは話を続けてしまうことがありました。
ある日、不用品回収を名乗る業者からの留守番電話を確認すると、すでに母の自宅を訪問する日時まで決まっていました。
家族が知らないうちに、業者を自宅へ招く約束をしていたのです。
さらに家の中を確認すると、以前置いてあった貴金属類などが見当たらなくなっていました。
ただし、いつ、誰に、どのような経緯で渡ったのかは確認できていません。
次回は、訪問予定を断り、玄関へ注意書きを貼った時期と、高齢者を狙う訪問購入への不安について振り返ります。
認知症初期の記録
前回の記事では、認知症の通院理由が分からなくなり、待合室や薬局でも落ち着かなくなった母の様子を振り返っています。


