この記事は、2021年2月8日に作成した介護認定調査用のメモをもとに、当時の出来事や家族の対応を振り返って書いています。本文では、母を「鮨子」、長男である私を「日和鷹」、妻を「日和嫁」、母の事実婚のパートナーを「Gさん」という仮名で記載しています。
母・鮨子は、区役所や公共料金、保険会社から届く正式なお知らせについては、内容を理解できず放置することが増えていました。
ところが、知らない業者からかかってくるセールス電話には、相手の話を聞いてしまうことがありました。
ある日、母の固定電話に残されていた留守番電話を確認すると、不用品回収を名乗る業者からのメッセージが入っていました。
その内容を聞いて、私は驚きました。
単なる営業電話ではなく、すでに母の自宅を訪問する日時まで決まっていたのです。
母は、家族が知らないうちに、知らない業者を自宅へ招く約束をしていました。
留守番電話には、親しげな声が残っていた
留守番電話に残されていた女性の声は、強い口調ではありませんでした。
むしろ、以前から母と親しく話していたようにも聞こえる、柔らかく丁寧な話し方でした。
母を安心させるような声で、訪問する予定について確認していました。
母がどのような説明を受け、何を回収してもらうつもりだったのかは分かりません。
業者側が「不用品を回収する」と説明していたのか、「不要な品を買い取る」と説明していたのかも、私には確認できませんでした。
ただ、留守番電話の内容から、母が訪問を了承し、日程を決めていたことだけは分かりました。
正規のお知らせは分からないのに、営業の話は聞いてしまう
前回の記事で書いたとおり、母は区役所や公共料金、保険会社から届く書類を理解できず、放置することがありました。
それにもかかわらず、セールス電話の相手とは会話を続け、自宅へ来てもよいと答えてしまいます。
一見すると、矛盾しているように見えます。
しかし、行政や保険の書類には、難しい言葉、期限、手続きの順序など、多くの情報が含まれています。
それに対して営業電話では、相手が母の反応に合わせながら、分かりやすい言葉で話しかけてきます。
「使っていないものはありませんか」
「片づけのお手伝いをします」
「ご自宅まで伺います」
そのように親しげに話しかけられれば、母は相手を自分を助けてくれる人だと受け止めたのかもしれません。
これは当時の状況から家族が考えた可能性であり、実際にどのような会話が行われたのかは確認できていません。
すぐに業者へ電話して訪問を断った
私は留守番電話に残されていた番号へ連絡し、訪問を断りました。
母は認知症と診断されており、家族が把握していない訪問や取引には応じられないことを伝えました。
この時点では、まだ予定されていた訪問日より前だったため、業者が母の自宅へ来ることは防げました。
しかし、私が留守番電話に気づかなければ、母は一人で業者を家へ入れていたかもしれません。
自宅の中を見せ、どのようなものを持っているかを相手に伝えていた可能性もあります。
そう考えると、訪問を止められたことで安心する一方、家族が知らないところで同じことが以前にも起きていたのではないかという不安が残りました。
玄関に「訪問業者お断り」の注意書きを貼った
電話を断っただけでは、別の業者が訪ねてくる可能性があります。
また、母が一度訪問を承諾したことを忘れ、実際に業者が来たときに玄関を開けてしまうことも考えられました。
そこで母の自宅の玄関に、訪問業者を断るための注意書きを貼りました。
不用品回収・訪問買取などの営業はお断りします。
家族の了承がない訪問には対応しません。
必要に応じて警察へ相談します。
注意書きを貼れば、すべての訪問を防げるわけではありません。
それでも、業者に対して家族が見守っていることを伝え、母にも「知らない人を家へ入れない」という目印にしてもらうために貼りました。
当時は、できる対策を一つずつ重ねるしかありませんでした。
以前から別の業者も出入りしていたのかもしれない
今回の留守番電話をきっかけに、母の自宅にあった品物を確認しました。
すると、以前は押し入れなどに保管されていた貴金属類や、金銭的価値があると思われる品物が見当たらなくなっていました。
その中には、私が以前から母の自宅へ置いていたものも含まれていました。
しかし、いつなくなったのかは分かりません。
誰が持ち出したのかも、母が誰かへ渡したのかも確認できませんでした。
母が自分で別の場所へ移した可能性もあります。
母が以前に別の業者へ売却した可能性も考えましたが、契約書や領収書などは見つかりませんでした。
今回電話をしてきた業者が関係していたという証拠もありません。
そのため、特定の業者が持ち去った、だまし取った、安く買い取ったと断定することはできません。
事実と家族の推測を分けて考える
当時、家族が確認できた事実は次のとおりです。
- 不用品回収を名乗る業者から留守番電話が入っていた
- 母が自宅への訪問を了承し、日時まで決めていた
- 家族が連絡して、予定されていた訪問を断った
- 以前あった貴金属類などが見当たらなくなっていた
- 品物を誰に、いつ、どのように渡したのか確認できなかった
一方で、「以前にも業者が来たのではないか」「貴金属を安く買い取られたのではないか」という部分は、家族の推測です。
記憶が曖昧になった母へ繰り返し尋ねても、確かな経緯を確認することはできませんでした。
何が起きたのか分からないこと自体が、家族にとって大きな不安でした。
本人が承諾していても、家族の不安は残る
母が訪問や売却に自分で同意していた場合、母自身は「だまされた」と感じていなかった可能性があります。
相手の説明を聞いて、不要なものを片づけてもらったつもりだったかもしれません。
しかし、品物の価値や契約条件を十分に理解したうえで判断できていたのか、家族には分かりませんでした。
本人が「いいですよ」と答えたことだけをもって、すべて問題がなかったとは言い切れません。
一方で、認知症と診断されていることだけを理由に、本人の意思をすべて無視してよいわけでもありません。
本人の意思を尊重しながら、理解が難しくなった部分をどのように支えるか。
契約や売却を伴う場面では、その判断が特に難しいと感じました。
訪問購入には法律上のルールがある
事業者が消費者の自宅を訪れ、品物を買い取る取引は、一般に「訪問購入」と呼ばれます。
訪問購入については、特定商取引法で事業者が守るべきルールが定められています。
- 依頼していない消費者の自宅を突然訪問して、買い取りを勧誘することは禁止されている
- 消費者が契約する意思がないと示した後、勧誘を続けたり、改めて勧誘したりすることは禁止されている
- 契約した場合は、品物の種類、購入価格、事業者名などを記載した書面を渡す必要がある
- 原則として、法律で定められた書面を受け取った日から8日以内はクーリング・オフができる
- クーリング・オフ期間中は、売却する品物の引き渡しを拒むことができる
ただし、取引の種類や品物によって適用関係が異なることがあります。
契約書が見つからない、品物が返ってこない、本人が契約内容を覚えていないなどの場合は、家族だけで判断せず、早めに消費生活センターへ相談することが大切です。
売るつもりのない貴金属は見せない
最初は「古着や食器を引き取る」という話だったのに、訪問後に貴金属やブランド品を見せるよう求められる相談もあります。
処分するつもりのない品物は、業者に見せないことが大切です。
「見るだけ」「査定だけ」と言われても、売る意思がなければ、はっきり断ります。
また、約束していない業者が訪ねてきた場合は、玄関を開けず、インターホン越しに断る方が安全です。
一人で対応することが難しい場合は、「家族に確認しなければ決められません」と伝え、その場で契約しない仕組みにしておく方法もあります。
私たちが行った対応
- 留守番電話に残された業者へ連絡し、訪問を断る
- 母の自宅へ、訪問営業を断る注意書きを貼る
- 知らない人を自宅へ入れないよう、繰り返し母へ伝える
- 不審な留守番電話や着信履歴を家族が確認する
- 母の自宅に保管されている貴重品を確認する
- 業者名、電話番号、訪問予定などを記録する
- 契約書や領収書が残されていないか探す
どの対策も完全ではありませんでした。
母は説明した内容を忘れてしまうため、「知らない人を入れないでね」と一度伝えるだけでは十分ではありません。
家族が定期的に電話や自宅の様子を確認し、業者との接触に早く気づく必要がありました。
今なら加えたい対策
当時は、目の前の訪問を断ることで精いっぱいでした。
今振り返ると、次のような対策も早めに行えばよかったと思います。
- 貴金属や思い出の品を写真に残し、保管場所を家族で共有する
- 大切な品物には一覧表を作る
- 知らない番号からの電話は留守番電話で確認する
- 番号表示や迷惑電話対策機能を利用する
- 業者の訪問は、家族が同席できる日時以外は受けない
- 売却する場合は、その場ですぐ決めず、複数の査定を検討する
- 契約書、名刺、領収書を必ず保管する
- 不審な契約や訪問に気づいたら、早めに相談する
電話への対応が難しくなっている場合は、着信拒否や発信制限など、本人の状態に合わせた電話環境を検討することも一つの方法です。
電話対策について
固定電話を使いながら、着信拒否や発信制限などを組み合わせた方法は、次の記事で紹介しています。
困ったときの相談先
訪問購入や不用品回収をめぐる契約について、不安や疑問がある場合は、消費者ホットライン「188」へ相談できます。
本人だけでなく、家族や支援者から相談することもできます。
業者が帰らない、強い言葉で契約を迫る、品物を無断で持ち出したなど、身の危険や事件性を感じる場合は、警察への相談も検討します。
- 消費者ホットライン:188
- 緊急ではない警察相談:#9110
- 身の危険がある、事件や事故が起きている場合:110
契約から時間がたつほど、品物の行方や相手方を確認することが難しくなる場合があります。
「被害かどうか分からない」という段階でも、業者名、電話番号、留守番電話、契約書などを残したうえで、早めに相談することが大切です。
この記事について
この記事は、母と家族の介護経験を記録したものです。記事中の業者が違法行為や詐欺を行ったと断定するものではありません。見当たらなくなった品物についても、誰が、いつ、どのような経緯で持ち出したのかは確認できていません。契約や返還について判断が必要な場合は、消費生活センター、警察、弁護士などの専門窓口へご相談ください。
次回は、待ち合わせができなくなった話
この頃の母は、まだ一人で電車に乗り、認知症専門クリニックの最寄り駅まで来ることができました。
そこで私は、駅で母と待ち合わせをして、一緒に病院へ向かっていました。
しかし待ち合わせ時刻になっても、母は自宅にいます。
電話をすると、「今すぐ出るわ」と答えます。
ところが電話を切った時点で、外出すること自体を忘れてしまうようになりました。
次回は、何度電話をしても待ち合わせ場所へ来られなくなり、家族が自宅まで迎えに行く形へ変えた時期を振り返ります。


