この記事は、2021年2月8日に作成した介護認定調査用のメモをもとに、当時の出来事や家族の対応を振り返って書いています。本文では、母を「鮨子」、長男である私を「日和鷹」、妻を「日和嫁」、母の事実婚のパートナーを「Gさん」という仮名で記載しています。
母・鮨子の認知症を疑うようになったきっかけの一つは、年末に家族で食べたすき焼きでした。毎年、母が具材を用意してくれていましたが、その年の鍋には三種類ほどしか入っていませんでした。
「今年は、ずいぶん具材が少ないね」と尋ねると、母は困ったような顔をして答えました。
「そうよね。前は何を入れていたんだっけねえ?」
冗談でごまかしている様子ではありませんでした。毎年作っていたはずのすき焼きに、どのような具材を入れていたのかを、本気で思い出せないように見えました。
- 毎年作っていた料理の内容が出てこなかった
- すき焼きだけで認知症と判断したわけではない
- この頃は、まだ母が料理をしてくれていた
- 魚を焦がすことが増えていった
- 火をつけた後の目的が抜け落ちていたのかもしれない
- 焦げた魚を見ても、母には大きな問題に見えなかった
- やかんの空焚きが起きた
- お湯を沸かすだけでも複数の行動が必要だった
- 「料理ができるか」ではなく「安全に終えられるか」
- 母から料理を取り上げることへの迷い
- 魚の焦げと空焚きで、ガス台は危険だと判断した
- お湯は電気ポットで用意する形へ変えた
- 電気ポットの置き場所にも注意した
- 火を使わない食事へ少しずつ切り替えた
- 私たちが行った対応
- 今なら早めに確認したいこと
- 安全装置だけに任せることはできなかった
- 料理の変化は、母の生活全体を見直すサインだった
- 次回は、吸ったことを忘れてたばこを続けて吸った話
- 参考情報
毎年作っていた料理の内容が出てこなかった
すき焼きの具材を少なくすること自体は、認知症を意味するものではありません。買い忘れ、節約、体調、好みの変化など、さまざまな理由が考えられます。
しかし母の場合、こちらが「以前は何を入れていた?」と尋ねても、白菜、長ねぎ、春菊、豆腐、しらたきなど、以前なら自然に出てきたはずの具材が思い浮かばない様子でした。家族として、それまでの物忘れとは少し違うのではないかと感じました。
すき焼きだけで認知症と判断したわけではない
この出来事だけで、母が認知症だと判断したわけではありません。すでに、お金の扱い、予定の確認、探し物、電話など、日常生活のさまざまな場面で変化が見られていました。
すき焼きの出来事は、点在していた違和感を、家族が一つの問題として考え始めるきっかけになりました。その後、母を認知症専門クリニックへ連れて行き、診察や検査を受けることになります。
この頃は、まだ母が料理をしてくれていた
当時の母は、料理がまったくできなくなっていたわけではありません。私が実家へ行くと、魚を焼いたり、おかずを用意したりしてくれました。
台所に立ち、包丁を使い、ガス台へ火をつけることもできていました。一見すると、それまでと同じように料理を続けられているように見えました。
しかし、料理を始められることと、火加減や時間を確認しながら、安全に完成させられることは別でした。
魚を焦がすことが増えていった
母が焼いてくれた魚が、以前より焦げていることが増えました。最初の頃は、火加減を間違えたのだろう、焼いている間に別のことをしていたのだろうと考えていました。
誰でも料理を焦がすことはあります。そのため、一度や二度で大きな問題だとは考えませんでした。
ところが、実家へ行くたびに魚が焦げているようになりました。表面が少し黒い程度ではなく、食べる部分が少なくなるほど焼けていることもあります。
火をつけた後の目的が抜け落ちていたのかもしれない
母が魚を焼いている場面を、毎回最初から最後まで見ていたわけではありません。そのため、焦げた理由を断定することはできません。
魚を焼いている途中に電話が鳴ったのかもしれません。別の部屋へ物を取りに行き、そのまま探し物を始めた可能性もあります。
火をつけたことや、魚を焼いていることを途中で忘れていた可能性も考えましたが、実際に何が起きていたのかは確認できませんでした。ただ、火を使った料理を一人で任せることに、家族の不安が強くなっていきました。
焦げた魚を見ても、母には大きな問題に見えなかった
魚が焦げていることを伝えると、母は「あら、本当ね」と驚くこともありました。一方で、黒い部分を少し取り除けば食べられると考えているようにも見えました。
母には、わざと焦がしたつもりも、危険な料理をしたつもりもありません。本人にとっては、いつもどおり料理をした結果だったのだと思います。
家族が強い口調で注意しても、次の調理で確実に防げるわけではありませんでした。母は注意されたことや、前回焦がした出来事を覚えておくことが難しくなっていたからです。
やかんの空焚きが起きた
魚の焦げよりも、さらに不安を感じたのが、やかんの空焚きでした。母はお茶を飲むため、やかんに水を入れてガス台へかけていました。
ところが、家族が自宅を訪れると、やかんが黒く焦げていることがありました。水がなくなるまで火へかけ続けていたようです。
どの時点で水がなくなったのか、母が火を消したのか、安全装置が作動したのかは分かりません。それでも、やかんが焦げるまで加熱が続いたことは、火災につながりかねない出来事でした。
お湯を沸かすだけでも複数の行動が必要だった
やかんでお湯を沸かす作業には、いくつもの手順があります。水を入れ、ガス台へ置き、火をつけ、沸くまで待ち、火を消し、やかんを安全な場所へ移します。
家族にとっては単純な作業でも、途中で目的を忘れたり、別のことへ注意が移ったりすると危険です。火をつける操作ができるからといって、一人で安全に使い終えられるとは限りませんでした。
「料理ができるか」ではなく「安全に終えられるか」
母は包丁を持ち、魚を焼き、やかんを火へかけることができました。そのため、当初は「まだ料理ができる」と考えていました。
しかし、家族が確認すべきだったのは、料理を始められるかどうかだけではありませんでした。調理中に火の状態を確認し、必要なタイミングで消し、安全に片づけるところまで一人で続けられるかが重要でした。
途中までできることと、一連の作業を安全に完了できることは同じではありませんでした。
母から料理を取り上げることへの迷い
母は長い間、家族の食事を作ってきました。料理は、単なる家事ではなく、母の生活や役割の一部でもありました。
家族が「もう火を使わないで」と言うことは、母が長年続けてきた役割を奪うようにも感じられました。まだできる作業も多く残っていたため、すべてを禁止してよいのか迷いました。
一方で、火災が起きれば、母だけでなく近隣の方にも被害が及ぶ可能性があります。本人の自立や役割を尊重することと、火の安全を守ることの間で、判断を迫られました。
魚の焦げと空焚きで、ガス台は危険だと判断した
魚を焦がすことが繰り返され、やかんの空焚きも起きたため、母が一人でガス台を使い続けるのは危険だと判断しました。
一度注意すれば次から気をつけられる状態ではありません。母が火を使っている間、家族が常にそばへいることもできませんでした。
そこで、母が一人でいる時間はガス台を使わない生活へ切り替えることにしました。単に口頭で「使わないで」と伝えるだけでは忘れてしまうため、家族側で使用できない状態にしました。
ガス台の停止について
ガス栓や機器を自己流で分解・改造すると、ガス漏れや事故につながる危険があります。使用停止や機器の変更が必要な場合は、住宅の設備や契約状況に応じて、ガス会社、管理会社、専門業者などへ相談してください。
お湯は電気ポットで用意する形へ変えた
母は日常的にお茶を飲んでいたため、お湯を使えなくするわけにはいきません。そこで、やかんとガス台の代わりに、電気ポットを使う形へ切り替えました。
火を使わず、沸騰後に自動で保温されるため、やかんを火へかけ続ける危険を減らせると考えました。母にも、いつもお湯が出る場所を一つに絞ることで、使い方を分かりやすくできました。
ただし、電気ポットや電気ケトルも無事故ではありません。転倒による熱湯の流出、蒸気や本体への接触、電源コードへのつまずきなどに注意が必要です。
電気ポットの置き場所にも注意した
電気ポットは、安定した場所へ置く必要があります。テーブルの端や、コードを引っかけやすい場所へ置けば、転倒して熱湯がこぼれる可能性があります。
母が無理な姿勢にならず使える高さに置き、周囲へ物を積まないようにしました。給湯ロックなどの安全機能があっても、必ず事故を防げるわけではないため、訪問時には本体やコードの状態も確認しました。
火を使わない食事へ少しずつ切り替えた
ガス台を使わないようにすると、母が一人で作れる食事は限られます。電子レンジで温められる食品、そのまま食べられるもの、家族が用意した料理などを組み合わせる必要がありました。
母に何もさせないのではなく、盛りつけ、食器を並べる、冷蔵庫から取り出すなど、火を使わずにできる部分は続けてもらう形を考えました。
それでも、家族が食事の準備や確認を担う場面は増えました。火の使用を止めることは、一つの器具を使えなくするだけでなく、母の食生活全体を見直すことでもありました。
私たちが行った対応
- 魚の焦げや、やかんの状態を確認する
- 料理中にその場を離れていないか様子を見る
- 火を使った失敗が起きた日と内容を記録する
- 母が一人でいる時間は、ガス台を使わない形へ変更する
- お湯は電気ポットで用意する
- 火を使わず食べられる食事や、温めるだけの料理を用意する
- 住宅用火災警報器の設置状況や作動を確認する
- 食事の量や内容が極端に偏っていないか確認する
一人暮らしの本人が火を使えなくなると、家族だけで食事を支えることが難しい場合があります。配食サービス、訪問介護、通所サービスなども含め、ケアマネジャーや地域包括支援センターへ相談する方法があります。
今なら早めに確認したいこと
当時は、実際に魚が焦げたり、やかんが空焚きになったりしてから対策を始めました。今振り返ると、次のような変化を早い段階から確認しておけばよかったと思います。
- 冷蔵庫に同じ食品が大量に入っていないか
- 賞味期限切れや傷んだ食品が増えていないか
- 献立や料理の手順が以前と大きく変わっていないか
- 焦げた鍋や調理器具が残っていないか
- ガス台の周囲に燃えやすい物が置かれていないか
- こんろの火を消したか、繰り返し確認していないか
- 料理を始めたまま外出した形跡がないか
- 体重減少や食事回数の減少がないか
一つの失敗だけで判断せず、以前との違いが続いているか、生活や安全へ支障が出ているかを見ることが大切です。
安全装置だけに任せることはできなかった
現在のこんろには、調理油の過熱や消し忘れに対応する安全装置が付いたものがあります。住宅用火災警報器も、火災の早期発見に役立ちます。
しかし、安全装置があるから一人で使い続けられるとは限りません。調理中に衣類へ火が移る、周囲の紙や布へ燃え移る、熱い鍋を落とすなど、ほかの危険もあります。
機器の安全機能、室内環境、本人の状態、家族や支援者の見守りを合わせて考える必要がありました。
料理の変化は、母の生活全体を見直すサインだった
すき焼きの具材を思い出せなかったことは、最初は小さな違和感でした。魚を焦がすことも、たまたまの失敗に見えました。
しかし、それらが繰り返され、やかんの空焚きへ進んだことで、母が一人で火を扱うことは難しくなっていると分かりました。
料理を始められること、台所に立てること、ガス台へ火をつけられることだけでは、安全に一人暮らしを続けられるか判断できません。料理を終え、火を消し、食事を取り、後片づけをするまでを含めて見る必要がありました。
この記事について
この記事は、母と家族の介護経験を記録したものです。料理を焦がしたり、献立を思い出せなかったりすることだけで、認知症と判断することはできません。火の消し忘れ、空焚き、食事量の減少などが続く場合は、本人を一人で責めず、かかりつけ医、専門医、ケアマネジャー、地域包括支援センターなどへご相談ください。
次回は、吸ったことを忘れてたばこを続けて吸った話
火の危険は、台所だけではありませんでした。母は長年たばこを吸っており、一度吸い始めると、直前に一本吸ったことを忘れて、続けて次の一本へ火をつけるようになりました。
たばこがなくなると、自分でコンビニへ買いに行きます。そのため、この頃のたばこ代は以前より大幅に増えていました。
さらに、母の前髪が焦げていることがあり、固定電話の周辺や床にも小さな焦げ跡が残っていました。実際の場面を見たわけではありませんが、ライターや火のついたたばこが原因だった可能性を考えました。
次回は、吸ったことを忘れて喫煙を繰り返すようになり、家族が火災への強い不安を感じていた時期を振り返ります。
認知症初期の記録
前回の記事では、診察予約券を見るたびに保険証を探し、見つけた後も同じ探し物を繰り返していた母の様子を振り返っています。


