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【マンション迷子事件簿】母、帰宅時に自分の部屋が分からずご近所へ「ただいま」

※実話をもとに一部脚色しています。個人が特定されないよう配慮しつつ、笑える所だけお裾分け。

夕方。買い物袋からネギがこんにちはしている頃、うちの母(認知症と一緒に生活中)が元気よくエントランスへ凱旋。ここまでは完全勝利。問題は、ここから先の最難関ダンジョン――長〜い内廊下だ。

母はエレベーターを降りるとスッと背筋を伸ばし、「たしかこのへんだったのよ」とプロの捜査官みたいな目つきに。そして、311号室の前でインターホンをピンポン。「ただいま〜。お味噌切れてたから、赤味噌にしておいたわよ」

…開いたドアの向こうは、田中さん(推定・赤味噌派ではない)。田中さんは微笑みで応戦。「おかえりなさい、でも今日はうちじゃないみたい」。母、間髪入れずに「じゃあ、今日はおじゃましますにしておくわ」――強い。ネギもしなる。

次の候補、310号室。ピンポン。「ねぇ、鍵、さっき渡したっけ?」出てきたのは佐藤さん(独身・鍵は自前)。「鍵は…ご縁があればそのうち…」と詩的にかわす。母はメモ帳を取り出しサラサラ。「佐藤さん、独身。鍵=ご縁」――どこで使うのその情報。

その頃、私は帰宅途中のエレベーター内。管理人さんから着信。「きょうはピンポン・スタンプラリー開催中だよ」――母、またイベントを立ち上げてしまったらしい。

到着して廊下を曲がると、ちょっとした町内会。田中さんがネギを持ち、佐藤さんが買い物袋を持ち、管理人さんは参加賞のごとく冷たいお茶を配給。母は真ん中で得意げだ。「道に迷ったら人に道を作ってもらえばいいのよ」――哲学がいきなり更新された。

「お母さん、今日はどの号室の日?」と私。母は壁の非常口マークを指さす。「この人がいつも出口を教えてくれるの」――グリーンのランナー、あなたが今日のMVPです。

作戦会議:秘密兵器の切り札(カード)

そこで私は秘密兵器を取り出す。スマホサイズの写真カード。表に我が家のドアの写真、裏に大きく「304」。さらに、インターホンの横に貼る用のミニマグネットにも「ここ!」。

母はカードを見て、ドアを見て、私を見て――「あら、うちってテレビより薄いのね」。…それはカードの厚みの話。

無事、304の前に到着。母はピンポンを押す手をそっと下ろし、代わりに私の腕をトントン。「今日はただいまを家の中で言うことにするわ」。扉を開けると、ネギがついに自由の身。みそ汁の未来が見える。

片づけを終え、ふとベランダを見ると、斜め向かいの窓から小さく手を振る影。田中さんだ。手には手書きの札――「304覚えた!」。その横で佐藤さんが「鍵=ご縁」のメモを掲げて微笑む。廊下のスタンプラリーは、いつの間にか見守り商店街に進化していた。

おまけ:今日の学び

  • 迷子対策に「ドアの写真カード」と「号室の大きな数字」は効く(たぶんネギより効く)。
  • インターホンは押すものの、困ったら人の縁も押してみると道が開ける(ただし節度を添えて)。
  • 認知症は「忘れていく病」だけど、優しさは「積み上がる記憶」。廊下に今日も、やわらかい道が一本できた。
 

 

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